作業服を着たオジサンは、ボクのCDプロモーションの話を聞き終わると、「今、社長は出掛けておりまして・・・」と申し訳なさそうにしていました。「これを社長さんにお渡し下さい」とCDをオジサンに手渡ししたボクは、ベーゴマをリュックに押し込み、日三鋳造所を後にしました。
しばらく歩いたところにあった公園のベンチに座って空を見上げると、抜けるような青空とふんわり浮かぶ白い雲。それから、鋭い日差しに目が眩んだかと思うと・・・ボクは気がつくと9才の頃に戻っていました。
そこは都営アパートの階段の狭い踊り場、(左利きの)よっちゃん、(ハナタレの)かずちゃん、(チビの)のりちゃんと一緒にトコを囲んで、ボクたちはベーゴマをやっています。
「イッションベ!」と声を合わせて、4人はベーゴマを一斉にトコへ放り込むように回します。ガチャガチャとベーゴマが音を立てると、あっという間に、のりちゃんのベーゴマは弾き出され、次に、うなりを上げたよっちゃんのベーゴマに、かずちゃんのベーゴマも遠くへすっ飛ばされてしまいました。
「くそっ!」と一言かずちゃんがうめくと、残るはボクとよっちゃんのベーゴマの一騎打ち。 ガチッ、ガチッとベーゴマの刃が音を立てて闘います。刃を傾けながらよっちゃんのベーゴマは、ボクのベーゴマの後ろ側にゆっくり回り込むと、最後の一撃を食らわしました。「あっ、まずい!」と思う間に、土俵を割るようにボクのベーゴマはトコから外れ、奈落の底に落ちていきました。「ううっ・・・」
よっちゃんはニヤリとすると「イッコーチ!」と高らかに勝ち名乗りを上げて、左手の甲でトコのシートを軽くポンと叩くと、自分のベーゴマをいとおしそうにトコから拾い上げました。
負けたボクたちは、弾き出された自分のベーゴマをよっちゃんにそっと差し出します。「悪いなっ!」と遠慮なく三個のベーゴマを受け取ると、よっちゃんは次の勝負に、もう別のベーゴマを取り出し、得意のオトコ巻きで、ヒモをベーゴマに巻き始めました。
クチビルを噛み締めたボクは思わず、「ちょっと待って・・・、今度はゼンガじゃなくてツンドコで勝負しよう!」
来週につづく